【文・写真=吉岡香織】
最近は韓国や韓国好きの若者にも浸透しているという伝統菓子(以下、韓菓)。若者には「薬菓(ヤックァ)」が人気だそうです。韓菓にもたくさん種類があり、私は年配の韓国LOVERですが「油菓(ユグァ)」が大好きで、韓国の「食品名人」から作り方を教えてもらえるという素敵な体験があり参加してきました。
(左)「韓食文化空間イウム」のエントランス。(右)1階のカフェでは全国の食品名人の製品が展示され、購入もできる。
・「韓食文化空間イウム」と「食品名人体験広報館」のイベント
会場は、ソウル市鐘路(チョンロ)区の安国(アングク)駅2番出口を出て、北村路を北の方にまっすぐ進んだところにある施設「韓食文化空間 イウム」。韓食に関する展示・体験・広報・教育を行う空間で、キッチンスタジオ、カフェ、ギャラリー、図書館などがあります。
2階にある広いキッチンスタジオで、食品名人体験広報館が開催する、「名人体験」が行われています。「大韓民国食品名人(以下、食品名人)」の作った「材料」を用いて、名人から直接講義を受けることができます。
以前は江南にあり、コロナ以前に通った短期語学留学の授業の一環で「花餅(ファジョン)」作りを習ったことがあります。2022年8月から鐘路区に移転したそうです。
1階には「食品名人体験広報館 イウムカフェ」があり、全国の食品名人が作ったお茶、韓菓、お餅などの、伝統を大切にしながらも現代向けに作られたメニューを楽しむことができます。お茶は茶葉を選ぶことができ、生産した名人、品種の希少性などについて紹介しているカードももらえます。店内は食品名人たちが作った製品が壁一面にディスプレイされていて見応えがあります。
「韓食ギャラリー」という展示空間では、韓食や食文化に関する文化的な価値について学ぶことができます。「伝統酒ギャラリー」もあり、韓国の伝統酒の味と素晴らしさ、文化的な価値を広報していて、伝統酒ソムリエによる試飲体験(要予約)や、購入をすることもできます。
食品名人体験広報館: http://blog.naver.com/kfmcenter
(左)2階にあるキッチンスタジオ。広くて綺麗。(右)体験で使用する材料や調理器具が用意されていた。
・「食品名人」とは
「食品名人」とは一体どのような制度なのか、食品産業振興法施行令や企業支援プラットフォームからまとめました。
「食品産業振興法第14条および同法施行令第14条、第16条により農林畜産食品部が伝統食品産業の活性化と継承・発展のために食品の製造·加工・調理分野で優秀な機能を保有した食品名人を指定し育成する制度。 食品名人は1994年から指定しており、伝統食品分野で81人の名人が活動している(2022年12月7日基準)。
―大韓民国食品名人の資格要件ー
次の各号のいずれかに該当する資格要件を備えていなければならない
1.当該食品の製造·加工·調理分野に引き続き20年以上従事した者
2.伝統食品の製造·加工·調理方法を原型どおり保全しており、これをそのまま実現できる者
3.大韓民国食品名人から保有機能に対する伝授教育を5年(大韓民国食品名人死亡時は2年)以上受け10年以上その業に従事した者」
農林水産食品部長官からの評価も細かく行われるようです。「名人体験」とは、厳しい基準をクリアして国から指定を受けたスペシャリストの方々から、長年培ってきた技術・経験を学ばせていただける、大変特別で貴重な機会なのですね。
(左)「大韓民国食品名人第60号」の안복자(アンボクジャ)名人が実演。(右)各テーブルをまわり直接指導してくれる。
・アン・ボクジャ名人による「油菓」作り体験
私が今回体験したのは油菓作りです。イウムの2階にある広いキッチンスタジオ「食品名人体験館」には、電気コンロのついた大きなテーブルが6つあり、4名前後が1チームとなって行います。初対面のメンバー同士ですが、開始時間までウェルカムドリンクのシッケをいただきながら団欒できたのでチームの雰囲気が和みました。
スタッフの方から韓食文化空間イウムや体験プログラムについての紹介があった後、いよいよ名人の登場です。アン・ボクジャ名人は全羅南道潭陽(タミャン)郡でお店を営んでおり、オーガニックのもち米を使った油菓をはじめ、様々な韓菓を作っています。油菓は、もち米を洗ったり水に漬けたりを繰り返し、蒸したり砕いたりしてから乾かすという手間のかかる工程を経て板状にした、乾燥したお餅のようなものを(以下、餅板)油で揚げて作るのですが、この餅板を完成させるまでに数ヶ月から半年もかかるそうです。市販のものはもっと短期間で作ってしまうことが多いそうなので、材料の質だけでなく、手間や時間を惜しまずに大切に作るところもアン・ボクジャさんが名人を獲得した所以の一つではないでしょうか。そんな貴重な餅板を使わせていただき、私たちは油で揚げるところから教えていただきました。今回は普段目にする一口サイズの油菓よりも大きくて四角いサイズの「サンジャ」を作りました。
안복자한과(アンボクジャ韓菓)
https://anbokja.co.kr/
(左)油菓の元になるオーガニックのもち米から作った板。この状態にするまでに半年かかったという。(右)油をかけていきふくらんできたところ。丸まってしまうのでスプーンや箸などで四角くなるよう形を整える。
揚げるといっても油の中に入れるのではなく、油をオタマですくって餅板にかけてふくらませていきます。ふくらんできたらスプーンや箸などで形を整えます。温度管理が大切で、高温度の油だとふくらむスピードが早すぎ、形を整えるタイミングを逃したり焦げたりします。180度に熱した油をすくうと、餅板にかける時には温度が120度に下がり、何度も繰り返し油をかけてゆっくり丁寧に揚げることで、フワフワでモチモチの仕上がりになりました。
(左)時間をかけて丁寧に揚げ柔らかく仕上がった。(中)名人特製のジョチョン。(右)3色の衣をつけて完成。
少し冷まして油を落としてから、조청(ジョチョン)という水飴にくぐらせ、白、黄、桃色の衣(お米でできている)をまぶして完成です。名人特製のジョチョンも大変手間をかけて作ったものだそうで、舐めてみるととても上品で濃厚な味。オーガニック米を原料に半年かけて作った餅板の美味しさをジョチョンがさらに引き立てているのだなと感じました。色々な所で油菓を食べていますが、伝統的な手順で、一つも手を抜くことなく丹念に作られたこの油菓ほど美味しいものを食べたのは初めてで感動しました。たくさん持ち帰ることもできました。
(左)食品名人体験広報館カカオトークチャンネルに送られてきた5月の案内。私の参加した「名人体験」の他にもプログラムがある。(右)食品名人体験広報館のロゴと、その日の開催案内。油菓作りプログラムは約70分間(記念撮影などで少し延長)。
・予約方法
体験の募集案内の確認や予約は、カカオトークとNAVERを通して行われています。毎月、最終火曜日の11時から翌月分の予約が開始されます。ただし、予約フォームからは、韓国での電話番号を持っていなければならず外国人旅行者はできません。ですが、カカオトークで「食品名人体験広報館」のチャンネルの1対1トークに参加申し込みの旨を送ると予約することができます。人気があるので予約開始と同時の申し込みをお勧めします。私はキャンセル待ちをして、空席が出た案内をいただき参加することができました。
体験レッスンは韓国語で行われ、ある程度の語学力が必要です。でも私もそうでしたが、わからない単語があったり完璧ではなくても、ジェスチャーなどでカバーもできました。体験に参加することを目標に、料理に関する韓国語を学習するのも楽しいかもしれません。
・カカオトークで「食品名人体験広報館」をチャンネルと友達になる
・月末頃に次の月の体験案内が届くので確認する
・毎月最終火曜日の11時に予約が開始されるので、申し込みたい体験を1対1トークで送る
・費用は2万ウォン(異なる金額の体験もあり。写真参照)。当日に1階のカフェの中央にあるカウンターで支払う(カード払い可能)
韓菓以外にも、コチュジャン、キムチ、マッコリ、ジョチョンなどいろんなコースがあります。スタッフの方も、海外から参加したことを喜んでくださって、また来てくださいねとおっしゃっていただきました。韓国での料理教室はいろいろあると思いますが、「食品名人」から教わるというスペシャルな体験はなかなかありません。ぜひ皆さんも参加してみてくださいね。
*この記事は、日本のKOREA.net名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。
hjkoh@korea.kr