オピニオン

2019.09.02

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ハリー・J・カジアニス
米ナショナル・インタレスト・センター国防研究局長

米国人に韓国の歴史を語る際に伝えたい感情の一つが「喪失感」である。この感情は主に、日本による植民地支配、多くの命が奪われた韓国戦争、また、韓国戦争によって南北に分断されたことに起因する。私はこの3つの事件を、「韓国現代史の3大悲劇」と称している。

韓国について何の知識もない人に見知らぬ国の歴史を説明することは簡単ではない。ここで、歴史的な例を挙げたり、歴史小説のように説明したりするのは役に立つ。私は人々にこう話す。もし、米国が南北戦争が終わらないまま、今も分断された状態であればどうか。また、その前に米国がカナダによる植民地支配を受けていたらどうか、想像してみるようにと。ぴったりの例えではないかも知れないが、それを聞いた人々の表情が固まるのを見ると、私の言葉を理解したことが分かる。

このような理由から、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がここ数年間行ってきたことを私は「文大統領の奇跡」と呼んでいる。文大統領のこれまでの歩みは非常に特別なものである。北朝鮮との相互信頼構築、経済的利益の共有、南北統合と軍事的緊張緩和に向けて取り組んできた文大統領の努力は、地政学的に重要な意味を持つ。しかし、南北関係が改善されつつある中で行われた3回の南北首脳会談に加え、米朝首脳が何度か会ったにもかかわらず、今になってまた、外交的な膠着状態に陥っている。

良いニュースがあるとすれば、外交関係を中断させていた韓米合同軍事演習が終わったことだ。近いうちに、米朝が実務協議を行い、北朝鮮の非核化に向けた第一歩である3回目の米朝首脳会談の開催について議論する可能性もある。

この全てが歴史的な出来事ではあるが、韓国人にとっては長い旅の始まりに過ぎない。この後に起こることが、韓国と文在寅政権にとって極めて重要な意味を持つことは言うまでもない。今後、数週間または数カ月の間に新しい歴史が作り上げられるのなら、韓国は必ず自分の役割を十分に果たさなければならない。また、北朝鮮にもう一度手を伸ばし、古い傷を癒して協力を強めることで運命を共にしなければならない。文大統領は、8月15日の光復節(日本による植民地支配から独立した日)の演説で、「平和で繁栄を成し遂げる平和経済体制を構築し、統一により光復を完成させる」と述べた。

確かに、文大統領のビジョンは大胆で、リスクも大きい。しかし、これは北朝鮮が非核化と南北緊張緩和への道を選ぶことで開かれる未来への洞察でもある。これに関して、文大統領は同演説でこのように述べた。

「国際通貨基金(IMF)は、韓国が第4次産業革命をリードし、2024年頃には1人当たりの国民所得が4万ドル(約425万円)を突破するとの見通しを示している。そこに、韓国と北朝鮮の能力を合わせれば、それぞれの体制を維持しながらも8千万人規模の単一市場を生み出すことができる。韓半島が統一を果たすことになれば、世界第6位圏の経済大国になると予想している。2050年頃には、国民所得7~8万ドル時代を達成できるという国内外の研究結果も出ている。

平和経済は、究極的に、南北統一への道を作るだけでなく、短期的または中期的に見て、南北に至急必要な経済的ギャップを埋め、さらに成長できるよう導いてくれるはずである。今の韓国は、少子化問題に直面している。早ければ来年から経済活動人口が減少する可能性があるため、簡単に解決できない。北朝鮮に投資すれば、韓国は数百億ドルの利益を創出し、経済成長も成し遂げることができるだろう。同時に、現在160億ドルに過ぎない北朝鮮の経済近代化も促すことができる。

この全ては、決して簡単なことではない。もし、北朝鮮が非核化を選び、北朝鮮への制裁が解除されるとしても、韓国への投資を誘致するためには、多くの課題を解決する必要がある。北朝鮮は、財産権やビジネス環境などに関する法律の枠組みを作らなければならない。また、北朝鮮の人権状況を考慮すべきである。

それには時間が必要で、とても一日でできるようなことではない。文政権は、韓半島に住む全員が非核化の結実と韓半島に繁栄をもたらす経済的恩恵を受ける日が来ることを夢見ている。文大統領が光復節の演説で述べたように、2045年までに南北が統一するとしたら、今はその目標に向け必要なことを考えはじめる時期である。この夢を実現するため、平和経済より良いものは考えられないだろう。