オピニオン

2019.11.20


保坂祐二

世宗大学政治学科教授


旭日旗の2020東京オリンピック・パラリンピック(東京五輪)の競技会場への持ち込みを巡り、韓国と日本の間で「旭日旗」が問題となっている。


「日本の軍国主義の象徴だ」として持ち込みを禁じるよう求める韓国の声に対し、日本政府や東京五輪組織委員会は、「旭日旗は日本国内で広く使われている」などとして問題視しない方針を明らかにし、さらに問題となっている。

韓国が旭日旗の使用禁止を求める理由は、旭日旗は1870年に日本陸軍の軍旗として正式に採用されて以来、日本の陸軍・海軍が他の国を侵略するたびに日本軍が掲げた旗であるからだ。そのため、ナチスの旗であるハーケンクロイツと同様な戦犯旗という認識がある。

第2次世界大戦が終わった後、連合国は、ドイツに対する管理は徹底して行ったが、日本に対しては比較的甘かった。特に、日本を占領・統治していた連合国軍最高司令官総司令部(ダグラス・マッカーサーを最高司令官とする)は、天皇を処刑しなければならないというオーストラリアの主張を拒否し、日本国民を円滑に統治するために天皇制存続を認め、その権威を利用した。

連合国は、軍国主義の象徴であり、戦争を続けるための道具であった「靖国神社」を焼却するよう求めたが、同司令部はその要求を拒否し、靖国神社を一般の宗教法人にした。北東アジアでの冷戦の激化や韓国戦争の発生を受け、同司令部は日本に対する民主化政策を逆行させ、ナチスに該当する日本の極右派を釈放しはじめた。アメリカとしては、反共要塞としての日本が必要だったからだ。その過程において、戦犯国家としての日本に対する断罪は行われず、軍旗の旭日旗に対しても何の措置も行われなかった。その後、旭日旗は、日本の海上自衛隊の旗として使われるようになった。

韓国で旭日旗が問題視されるようになったきっかけは、2000年以来、サッカーの韓日戦で日本側の応援団が旭日旗を使ったことだ。その前までは、韓国でも旭日旗へに認識があまりなかった。

多くの人々が注目するサッカーというスポーツを契機に、忘れられていた戦犯旗「旭日旗」の問題が始まったと言えるだろう。

平気で旭日旗を応援に使う日本の応援団を見た韓国人は、それを韓国に対するからかいであると受け止めると共に、侵略への欲望の現れだとして糾弾し始めた。その結果、サッカー競技会場への旭日旗の持ち込みは禁止となった。「侵略の象徴」である旭日旗を、なぜ、政治や軍とは無関係であるべきのサッカー競技場に持ち込むのか。韓国人は強い憤りを感じた。

1941年に日本がアメリカの真珠湾を攻撃し、太平洋戦争を起こした際の首相は陸軍大将の東條英機だった。戦後の東京裁判で、「平和に対する罪」に問われてA級戦犯とされた28人のうち、陸軍は15人、海軍は3人だった。このため、戦争犯罪集団というイメージは海軍より陸軍に強い。

旧日本陸軍をモデルにする陸上自衛隊は、太平洋戦争を主導した旧日本陸軍との断絶を強く意識した。特に、陸軍の象徴であった星のマークを使用は、陸上自衛隊で絶対禁止となった。十分とは言えないが、陸上自衛隊には、過去日本の侵略戦争に対する反省が存在するのだ。

しかし、海上自衛隊は、発足に旧日本海軍人事が深く関与しているせいか、旧日本海軍を継承する部隊という意識が強い。

海上自衛隊では、侵略戦争当時の旭日旗だけでなく、当時の習慣の一つであった週末にカレーを食べることを伝統だとして、今も続けている。海上自衛隊の音楽隊は、侵略戦争時の軍歌を今もそのまま演奏するなど、多くの文化を旧日本海軍から継承した。この部分が、問題の発端と見られる。

自衛隊での旭日旗使用に関しては、現在の「平和憲法」下で制定された自衛隊法施行令が規定している。そのため、旗そのものを変えるには法改正が必要になる。今、侵略戦争を「アジア開放戦争」だと主張する極右派の安倍政権下で自衛隊法の改正は、事実上、不可能に近い。

日本側は、旭日旗の模様は、歴史的に広く使われてきたものだと主張する。しかし、それは拡大解釈に過ぎない。

武士が勢力を伸ばしはじめた12世紀以来、旭日旗の原型と見られる模様を軍旗として使った武士らが九州地方にいたが、一般的なものではなかった。

武士らが軍旗として使ったため、旭日旗の起源もやはり侵略的だった。旭日旗が日本で一般的な模様になったのは、旧日本陸軍が16条の光線模様を軍旗に正式採択した1870年以来のことであり、1889年に旧日本海軍が旗にある太陽の位置を少し移動させた旭日旗を軍旗に採択して以来である。

同じ敗戦国であるドイツは戦後、ナチスの象徴である「ハーケンクロイツ」の使用を禁止した。
現在、ドイツ軍は、12世紀ドイツ騎士団以来の伝統だとして鉄十字のマークは使用している。ドイツはハーケンクロイツを排除し、伝統の紋章である鉄十字を守ったのだ。鉄十字が国際的に問題にならない理由には、キリスト教圏では、十字模様が一般的な紋章だということもある。だとしても、旭日旗が鉄十字のように歴史的な伝統という主張は説得力に欠けている。前述のように、旭日旗の模様は、日本の一部の武将らが軍旗として使っただけで、歴史的に見て日本で一般的なものではなかったからだ。

つまり、侵略戦争と関連のある旭日旗を、国際舞台である五輪の競技会場に持ち込むことは、政治的なものであり、挑発的なものであることに問題の核心がある。

このために、旭日旗の搬入は政治的なものではないという日本側の主張には無理がる。十分に問題を起こす素地のある、侵略の象徴である旭日旗を、なぜスポーツ競技で活用しようとするのか。

日本にとっては、得することより損することが多くなるだろうと判断される。