オピニオン

2020.02.11

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保坂祐二 

世宗大学教授(政治学専攻)


日本政府は今年1月に東京都内にあった展示施設「領土・主権展示館」の展示面積を以前の約7倍に広げ、新装開館した。同館は、内閣官房領土・主権対策企画調整室により開設された。つまり、内閣総理大臣直属の機関というものだ。日本政府は、東京オリンピックを控えて隣国との領土問題をめぐり、日本が有利な立場になれるよう同施設を広げたと思われる。

同館は、北方領土(北方四島)や独島(日本政府が竹島と呼ぶ韓国固有領土)、尖閣諸島が日本固有の領土であることを広報している。しかし、日本が実効的に支配しているのは「尖閣諸島」のみである。北方領土と独島は、それぞれロシアと韓国が実効的に支配している。安倍首相は、ロシアとの北方領土交渉について、日本が有利な立場になれるよう努力してきたが無駄だった。ロシアのプーチン大統領が「北方領土はロシアの領土である」と宣言したからだ。安倍政権はロシアとの外交の失敗をなだめ、領土問題で日本国民の支持を得ようとして、同館を利用したと言えるだろう。韓国政府とロシア政府は、日本政府による北方領土・独島領有権主張と同館に対し、強い遺憾を表明した。

同館の展示物は外務省が紹介して来ている内容と変わらない。独島について、韓国政府の主張は無視し、事実を歪曲する日本政府の主張を盛り込んだ資料を展示している。

例えば、韓国の鬱陵島(ウルルンド)と独島への渡航が禁じされていなかったと紹介しているが、1696年に日本政府は、鬱陵島と独島への渡航を禁止している。また、1877年に日本政府は、鬱陵島と独島が日本領土ではないと指摘した公文書が存在するが、同館はそれも隠している。

このほか、日本政府は1905年独島を島根県に領土編入し、一方的に行政措置を行った。その資料も展示されているが、全く根拠のない日本国内の措置に関する主張にすぎない。

韓国政府は、1906年の「 指令第 3 号」を通じて、独島が韓国領土であることを主張した。1年後、朝鮮時代第26大国王であり、大韓帝国第1代皇帝である高宗(ゴジョン)が「皇帝は帝国の主権を一毛たりとも他国に譲らない」とし、ハーグで開かれた万国平和会議で密使に韓国領土を守ることを宣言させた。

また、高宗の命により編纂された1908年の「増補文献備考」には、鬱陵島と于山島(ウサンド、独島の旧名称)は、于山国(新羅に帰属された地域)の領土であることや、独島が韓国の領土であることが明示されている。このように、国が危機的な状況に陥ったとしても、韓国の祖先たちは独島が韓国の領土であることを公表してきたのである。

同館は、韓国の主張の核心を無視し、日本の主張のみを扱っているのだ。
1945年の日本の敗戦後に関する資料も歪曲している。1951年のラスク書簡には、独島が日本領として残されたと記述されているが、同書簡は、米国の秘密文書であり、連合国との合意がないため、無効である。

米国や連合国は、1946年に連合国軍最高司令官により発令された「SCAPIN第677号」に基づき、独島を韓国領として捉えていた。李承晩(イ・スンマン)大統領は、1952年に「平和線」を宣言し、独島を韓国水域に取り込んだ。これは、韓国の主権行為であり、反対する連合国もなかった。当時の重光葵外相も認めた事実がある。

しかし、同館にはこのような韓国側の「証拠」はない。同館にある資料は、一方的で真実を歪曲した日本政府の主張のみである。結局、「領土・主権展示館」は、韓国やロシア、中国と摩擦を起こし、北東アジアにおける平和構築を妨げる結果を生み、安倍政権における失敗政策のひとつになるだろう。