オピニオン

2020.02.13

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矢野秀喜

強制動員問題解決と過去清算のための共同行動


一昨年10月30日、韓国大法院は戦時中に旧日本製鉄に動員された元徴用工4人(呂運澤・申千洙・李春植・ 金圭洙 )が起こした訴訟において、原告の請求を認める判決を出しました。

1997年12月に始めた訴訟が最終確定するまでに21年の歳月を要しました。呂さんら原告にとっては文字どおり人生をかけたとも言うべき闘いであり、大法院判決はその生きた証しでした。

ところが日本政府、安倍首相はこの判決を「国際法に照らしてあり得ない判決」と非難し、「解決済みの問題」と切り捨てました。原告を「徴用工ではない。旧朝鮮半島出身労働者だ」とも言いました。これは、法的にも、歴史的にも誤った主張ですが、それだけではありません。強制動員被害者の被った被害、苦難に満ちた闘い、ひいては彼らの人生そのものを否定するものとも言わなければなりません。

安倍政権は依然として、大法院判決を否定し、「国際法違反状態の是正」を迫っています。なかなか解決への道筋は見えてきません。ただ、強制動員問題解決への道は閉ざされてはいません。

日本の中にも、強制動員被害者の問題を放置すべきではないとの声は存在します。新日鉄は1997年、旧日鉄釜石製鉄所に動員された韓国人元徴用工の遺族11人が、遺骨の返還や未払い賃金の支払い等を求めて起こした訴訟で、原告と和解をしました。新日鉄は未払い賃金の支払い等については、「別会社」等を理由に法的責任を認めませんでした。しかし、遺骨が返還できない点については「人道的対応が必要」と考えました。そして、遺骨を返還できない代わりに、慰霊・追悼のための費用として原告に1人当たり200万円を支払い、和解をしたのです。

歴史の事実を踏まえること、支配され傷ついた人びとの「恨みや怒り」に向き合うこと、これこそが問題解決の土台となるべきものです。韓国人強制動員被害者が日本で起こした訴訟は9件で、訴えられた日本企業は5社(三菱重工3件、日本製鉄2件、不二越2件、日本鋼管〔現JFE〕1件、東京麻糸紡績〔現テイジン〕1件)です。そのうち3社(日本製鉄、不二越、日本鋼管)が、被害者原告と和解し、裁判を終了させているのです。いずれの企業も裁判で賠償を命じられることはありませんでしたが、それでも被害者との和解を選択したのです。安倍政権が、「解決済み」と言っても、「それだけではすまない」と考える企業はあるはずです。

この和解協議において新日鉄側の交渉担当者であった唐津恵一氏(当時・新日鉄法務部リーダー、現・東京大学教授)は、次のように語っています。

「日本が韓国を植民地化したがゆえに、朝鮮半島の人が『日本人』となりました。日本が始めた戦争でその方々も他の日本人同様、大変な目に遭わせてしまった。日本人として常に忘れてはいけない事実です。そうした歴史に対する朝鮮半島の人の恨みや怒りが残っているため、訴訟がなくならないのであれば、その恨みや怒りを消すことを考えなければいけません。互いに史実を正確に理解し、真摯に話し合うことが大事だと思います」(9月29日付「赤旗日曜版」)。

そして、日本のメディアの多くはこの安倍政権の主張、論法をそのまま受け入れるかのような報道を続けています。1965年日韓基本条約、請求権協定がどのような政治情勢、環境の下で交わされたのか、何を合意し、何を封印・棚上げしたのかに触れない報道が、多くの国民をミスリードしています。多くの日本国民が安倍政権の対応を支持しているのはそのためです。

安倍政権の強制動員問題に関する対応を改めさせ、企業に問題解決を決断させるには、日本の世論を変えていかなければなりません。それには、多くの日本国民に戦時中の強制動員の歴史、その実態について学んでもらう必要があります。そのような努力を重ねていく中で、「解決済み」とはできない、と考える国民を広げていくことができるでしょう。

そのために日本の市民は2018年11月に、「強制動員問題解決と過去清算のための共同行動」を立ち上げました。この「共同行動」には、強制動員被害者の裁判を支援してきた団体、日韓の市民連帯の活動を続けてきた団体、平和運動団体などが結集しています。一昨年の秋以降、「共同行動」は、大法院判決の意義、日本政府の主張・対応の誤り、強制動員の歴史・事実、問題解決の必要性等について市民(国会議員も)の理解を得るために、学習会、集会・シンポジウムなどを開催してきました。

ある大学のゼミで徴用工問題について報告した後には、次のような感想が出されました-「この事実をどうにか人々に広め、現状を変えたいと思ったり、どのような運動や声明が過去にあったのかを調べ、アプローチの仕方を学びたい」、「報道の仕方や内容が本当に正しいのかどうか、自分で調べてみなければ分からない」。

我々の活動を通じて、日本人の中で小さな変化が起こったのだろうと思います。

そして、昨秋11月以降、リーフレット「『徴用工』問題 Q&A」を印刷し、これの普及を進めています。「東京新聞」「週刊金曜日」などが取り上げてくれて、北海道から九州、沖縄(韓国の光州からも)まで多くの地域から注文が届いています。

ともすれば悲観的にならざるを得ない状況が続きます。しかし、被害者たちは胸中に「恨(ハン)」を抱え、長い闘いを続けてきました。その闘いが大法院判決を生み出したのです。これを無駄にすることはできません。そして、日本の中にもそれを重く受けとめている人びと、企業は存在します。それを信じ、被害者たちが「恨」を解くことのできる日が来るまで闘いを続けていきます。

矢野秀喜は1995年から日本製鉄元徴用工裁判の支援などの韓日問題に取り組んできた。