オピニオン

2020.06.27


保坂祐二

世宗大学教授(政治学専攻)



日本政府が去る6月15日に一般公開した「産業遺産情報センター」には、2015年7月の韓日合意を破った不当な内容が含まれている。日本政府は2015年7月、長崎の端島(=軍艦島)など「明治日本の産業革命遺産23カ所」をユネスコ世界文化遺産に登録することに成功した。23ヶ所のうち7ヶ所が日本の植民地時代に朝鮮人が連行され強制労働させられた施設だったため、韓国政府はこれらの施設が世界文化遺産に登録されることに強く反対した。


しかし、日本政府が朝鮮人強制徴用の事実を適切に展示し犠牲者を追悼すると約束したため、韓国側は日本側の施設の世界文化遺産登録に同意した。
しかし日本政府は、2年以内に朝鮮人強制徴用という歴史的事実を展示するという約束を破っただけでなく、5年近くも経った2020年6月15日、東京新宿に「産業遺産情報センター」を一般公開した。同センターは日本政府が支援する財団法人「産業遺産国民会議」が運営する。
問題となる部分の一例は、長崎市所在の端島炭鉱で韓半島出身者に対する差別がなかったという前住民の証言などが展示・紹介された事実である。


この展示物の背景には、日本は植民地時代に朝鮮人労働者を徴用したが、それは合法だったという論理がある。戦争時のような非常事態では「国民」を強制動員することは国際法でも認められているという論理を日本側は主張している。そして、「当時、朝鮮人も日本国籍者だったので、日本法に従うのは当然だった」と言い張る。


しかし、日本による植民地時代に朝鮮人は日本国籍を持っていただけで、日本人と同様の法的待遇を受けてはいなかった。当時、朝鮮と台湾、そして日本は、互いに異なる法域だった。法域の違いからくる様々な差別が朝鮮と台湾などの日本の植民地では付きまとった。その一例を挙げれば、朝鮮人などの外地人には国政参政権が与えられなかったという点である。1945年4月になってやっと日本では、朝鮮人などの外地人にも内地の国政参政権を与えると決定したが、結局施行されなかった。朝鮮人や台湾人には日本国民としての義務だけを要求し、国民としての権利は与えなかったというのが日本帝国主義(=日帝)の差別政策の核心だった。


そして、日帝は炭鉱労働という最も過酷な重労働に朝鮮人、中国人、さらには米国人などの戦争捕虜たちを動員した。米国人捕虜として日本の炭鉱労働に投入された人々は、「坑道に入って働けば死ぬ」と考え、自ら手首を折るなどの自害を続け、坑道の中に入ろうとしなかったという生々しい証言をして話題になった。


初めは、過酷な炭鉱労働をしようとする日本人がほとんどいなかったため、日本での炭鉱労働は囚人労働から始まった歴史がある。九州の三池炭鉱など大きな炭鉱では、初期に無期懲役以上の判決が確定した囚人たちを炭鉱労働に投入した。しかし非人間的な待遇に抗議して囚人たちは幾度か炭鉱で暴動を起こしたため、管理者たちが囚人たちを暴行、殺害するなど大きな人権侵害が起こった。そのため炭鉱での囚人労働はほとんど中止になった。


その後、炭鉱では日本の極貧層の人々を募集したが、それもままならず、朝鮮人など植民地の人々と戦争捕虜たちを炭鉱に投入することを決めた。つまり、初めから日本人に替えて朝鮮人、中国人、戦争捕虜などを犠牲にしたのが戦争時の強制徴用の実態である。


厳しい労働のため、炭鉱に連行された朝鮮人たちの約70%は逃亡したという統計がある。しかし朝鮮人が逃亡した場合、彼らに毎月の賃金から20~30%させていた強制貯蓄を、全て会社が横領した。日本人労働者たちは貯金通帳と印鑑を本人が持っていたが、朝鮮人労働者の通帳と印鑑は監督官が持っていて、逃亡や中途退職時にはすべて会社の金として回収した。日本人労働者と朝鮮人労働者は、万一表面的な賃金額が同じだとしても、構造的にひどい差別があった。また賃金の20%を朝鮮に送金すると約束しながら、送金せずに炭鉱側が横領した事例も多い。


端島の状況はさらに悲惨だった。端島から脱出するためには、海を18キロ以上泳がなければならない。このため、逃亡中に溺死した人々が多かった。逃亡に失敗した人々はひどい拷問を受けた。軍艦島で監督官を務めた小迫正行氏は、1973年10月25日の朝日新聞長崎版のインタビューを通じ、軍艦島で朝鮮人を差別したと証言した。 「自分も朝鮮に募集に行って強制的に朝鮮人を連行した。 (中略)自分たちは、中国人や朝鮮人を普段から差別した。(中略)戦争時、炭鉱では軍隊とは比較にならないほど厳しい労働をさせた。逃亡中に海で溺死する者が多かった。(朝鮮人たちの報復を恐れて)敗戦した時、まず秘密裏に中国人や朝鮮人を監督した人々を島から避難させた」。


今回、一般公開された情報センターには、「朝鮮人への差別はなかった」という証言だけが展示されている。父親が端島炭鉱で働いていたという在日韓国人2世は、「いじめられたとか、指差されて『あれは朝鮮人だ』などと言われたことはない」と証言した。彼の父親は監督官だったという。 監督官の地位が与えられた朝鮮人は、当時、日本に本籍を移した人で、本籍が日本なら日本人の待遇を受けた。法域として待遇を決定したのが、当時の日本政策だったからだ。日本人でも朝鮮に本籍を移したなら、彼は朝鮮人の法的地位を持った。したがって朝鮮人であっても、日本人待遇を受けた可能性のある人の子孫の証言だけを展示すること自体が歴史歪曲行為である。日本政府は、端島でひどい差別を受けたというその他多くの朝鮮人の証言をなぜ隠蔽するのか。


また、日本政府が東京に情報センターを開いた理由には、政治的意図があると言わざるを得ない。本来は2020年7月に開催される予定だった東京五輪を狙って、外国人観光客に情報センターを見せるために、わざわざ東京にオープンしたのではないだろうか。さらに現在、韓日間で対立している強制徴用判決問題を日本側に有利に展開する目的で、今回の情報センターを開設したのではないかとも考えられる。しかし、いくら歪曲しても歴史的な真実は明らかになるに決まっている。日本政府は、歴史を歪曲することによって自国の国家的位相を墜落させ続けていることを自覚しなければならない。