ひと

2015.01.26

「韓国語は、知れば知るほど面白いです。古典文学や四字熟語、土俗的な表現の意味とニュアンスすべてを正確に伝えるのは簡単ではありません。なので、それができたときはすごく嬉しいんです」

ソフィー・ボーマンさん(Sophie Bowman)はそういってはにかんだ。
彼女は先月、韓国障害文人協会が発刊する季刊誌「ソッテ文学」のなかで紹介された詩約50編の英訳版が収録された本「あなたの花として残りたい(Let Me Linger as a Flower in Your Heart)」を発行した人物だ。

소피 바우먼씨는 런던 대학 재학 시절 한국어를 우연히 제2외국어로 선택한 후 한국에 대한 열정으로 번역가의 길을 택한 것을 ‘운이 좋았다’고 말했다.

ソフィー・ボーマンさんはロンドン大学在学中、たまたま韓国語を第2外国語として選択したことがきっかけで韓国への情熱が湧き、翻訳者の道を選んだことを「運が良かった」と話す。



ロンドン大学アジア・アフリカ学科(Studies of Oriental&African Studies、University of London)で人類学を専攻していた際、なんとなく韓国語を学ぶようになったという。このことがきっかけとなり、彼女はロンドン韓国文化院で韓国語を学びながら、学校が長い休みに入る度に韓国に足を運んでは、ソウルのヨンセ(延世)大学語学堂で勉強し、どんどん韓国語にはまっていった。

韓国語に興味をもちはじめると、自然と韓国社会、韓国文学にも興味をもちはじめた。彼女は修士課程で韓国学を勉強し、韓国に興味を持つようになり、2012年からは韓国に定住しながら韓国の文学作品を英語に訳して海外に紹介する活動を行っている。

ボーマンさんに会って、韓国語との縁、韓国文学について話を聞いた。

소피 바우먼씨가 한국문학과 문학 번역작업이 어렵지만 매우 즐거운 일이라고 밝히고 있다. 왼쪽은 그가 최근에 옮긴 시집 ‘너의 꽃으로 남고 싶다’.

「韓国文学と文学翻訳は難しいが、とても楽しい」とソフィー・ボーマンさんは語る。左は彼女が最近訳した詩集「あなたの花として残りたい」


- 韓国語を勉強することになったきっかけは。
ロンドン大学在学中、なんとなく韓国語が最も異国の言語のように思え、勉強を始めた。当時は今とは違って韓国語を学ぶ人は多くなかった。偶然の選択だったが、運が良かったと思う。

- 7年以上韓国語を勉強し、韓国文学の翻訳を始めた。翻訳を始めた理由とは。
韓国語を学び始めたのは2007年からだ。修士課程を終えた後、再びソウルのヨンセ大学語学堂で勉強を始めた。2012年に就職した韓国の会社には英語を話す社員が私しかいなかったので、とても韓国語の勉強になったし、翻訳スキルも学ぶことができた。その後、韓国文学翻訳院の専門翻訳深化課程を受講し、勉強に没頭した。

- 韓国文学について面白いと感じた点や、魅了された点は。
ロンドン大学で、人類学の学士課程の勉強をしていた頃から韓国に興味を持つようになった。修士課程で韓国学を勉強するときに読んだ本のほとんどが、西洋の視点から書かれた歴史の本であった。しかし、韓国の文学作品を読みながら見えてきた韓国の姿は、西洋人が書いた本の内容よりもはるかに多くのものが詰め込まれていた。当時、韓国の歴史を実際に生きてきた人たちの話に触れたことあって、韓国の文学作品のほうが、より真の韓国の姿を描いていると感じた。韓国人が自分の国について書いた本と、西洋人の視点から書かれた韓国に関する本の内容には、大きなギャップがあったのだ。
初めて読んだ韓国の小説は、ファン・ソギョンの「ソンニム(客人)」だ。非常によく翻訳されていて、多くのことを考えさせられる内容だった。それ以来パク・ワンソをはじめ、いろいろな作家の作品を読み始め、韓国についてより深く理解していった。
それまでは韓国文学の翻訳者への道を真剣に考えたことはなかった。そんな中、韓国文学翻訳院の専門翻訳深化過程を志願した際に面接官だった先生が、私の中の隠れた情熱を見抜いてくれた。文学作品を韓国語で読み、理解し、同時にその意味を正確に伝えるのは容易なことではない。それでも、その過程が不思議と面白く、楽しい。


- 障害者文人協会の詩集、ソッテ文献を翻訳するきっかけとなったのは。
友人にパン・グィヒ教授の知人がいたので夕食を一緒に食べることになり、その後パン教授から翻訳の仕事をもちかけられた。最初にパン教授から渡されたソン・ビョンゴル詩人の「私は10個の瞳を持っている」という詩に深く感銘を受けた。物を見る目があることを私たちは当たり前のことのように思っているが、ほかの誰かにとってはそうではない。いくつかの詩を翻訳した後パン教授に、翻訳の仕事は本当に面白い、楽しみながら翻訳していると話した。今回の翻訳はそんな縁があって始まった。53編を翻訳するのに4か月ほどかかった。

- 本に収録された53編の詩のうち、特に記憶に残る作品は。
ソン・ビョンゴル詩人の作品のほかにも、20年以上前のソウルでの生活と苦しかった過去に対する郷愁を詠ったキム・ユルド詩人の「苦しみと美しさは山の上に住んでいる」、ニワトリの鳴き声の翻訳に苦労したイ・ミョンユン詩人の「こんにちは、チキン」、ナム・インウ詩人の「カリン一つを育てて」、春が来る過程を花の出産に喩えた、ムン・ミョンヨル詩人の「椿の分娩」の4編を挙げたい。この本に収録された詩は、障害を題材にしたものではない。喜びや悲しみ、愛といった人間の感情をテーマにしている。詩に込められた彼らの思いと感情を一つ残らず伝えることに一番気を使いながら翻訳した。

- 韓国語の文章力が韓国人と比べても優れている。これほどの文章力を身に着けるためにどのように勉強したのか。自分だけの秘訣や方法は。
この本に書いた翻訳者の序文の場合、ほとんど英語と韓国語の文章を一つずつ順番に書いていった。言語を学ぶということは、コミュニケーションを学び、そのコミュニケーションによって人やテレビ、雑誌などを通じて世界とつながる方法を学ぶことであって、テストで良い点数をとることが目的ではないと思う。
私は韓国に住んでいて、韓国人の友達ともほとんど韓国語でしゃべっているので、ロンドンの実家に帰ると、家族から英語がおかしくなったと冗談交じりに言われることもある。英語も変、韓国語も変なので、2つの言語の中間というか、中途半端な状態に陥ってしまっているのではないかと思う時もある。最初はイギリス人なのか韓国人なのかというアイデンティティの問題と思ったりもしたが、悪いことではないと思うようになった。買い物に行ったときや誰かを呼ぶときに韓国語でしゃべると、90%くらいの人は私の韓国語力に驚く。だがこれからは私のように韓国語を流暢に話す外国人がどんどん増えていくだろう。
古典や難しい表現、四字熟語のような漢字表現などは辞書に頼っている。幸い、高校で漢文の先生をしている友人がいるので、電話して聞くこともある。周りの韓国の友人に聞いたときに、韓国人の間でも意見が異なる表現がある。そんな時は、彼らの意見と自分の意見を比較しながら判断するが、たまに私が合っていることがある。そういうときは本当に嬉しい。
文学作品を韓国語で読むときは、スピードも非常に遅く、辞書を引きながら読むことが多い。とくに方言はむずかしい。慶尚道の方言は少し分かるようになったが、ほとんどの場合は誰かに聞く。この前北朝鮮の方言が出てくる文学作品を翻訳したが、わからない表現が辞書にも載ってなくて大変だった。

- 好きな韓国作品と作家は。
たくさんの本を読んだとは言えないが、パク・ワンソの「あんなに多かったオンタデは誰が食べたんだろう」をあげたい。2010年に読んだのだが、翻訳も本当にすばらしかった。作家の強いメッセージをよく伝えていた。これは翻訳者にとって、とても重要なことだ。この本を読めば、韓国社会と歴史についてより深く理解することができると周りの知人にも勧めている。
もう一つは最近翻訳されたハン・ガンの「菜食主義者」がある。この作品はイギリスでも人気がある。外国人の視点から見ても、翻訳者の視点から見ても、非常に変わっていて個性が強い作品なので魅力がある。このほど、キム・イファンの短いSF小説「君の変身」を翻訳した。この本は文章の書き方が簡潔で、意味もはっきりしているからすらすら読めたし、すぐ内容も理解できた。今はチョン・ギョンリンの「ヤギを追う女」を翻訳している。作家の強烈ではっきりとしたメッセージを英語に正しく翻訳することと、ユニークな表現を訳すのに苦労している。この作品を翻訳することで、私の英語力ももっと上達しそうだ。


- 韓国語の名前は誰か付けてくれたのか。特別な意味があるのか。
夏にソウルのヨンセ大学語学堂で勉強していたとき、友人たちと誕生日パーティーをしたのだが、そのとき遅くまで残っていた韓国の友達に「韓国の名前があったほうがいい」と強く勧められ、友達と一緒に考えた結果、名前は「ソフィー」と発音が似ている「ソヒ」にし、苗字は「ボーマン」の最初の文字と最後の文字を取って「パン」にした。また友人の母が「パン・ソヒ」という名前に漢字をつけてくださった。良い意味だという。その友人の祖父が「パン・ソヒ」の名前を筆で書いてくださった時は本当に感動したのを覚えている。

- 韓国での生活で大変だったこととは。また、一番良かったこととは。
2011年に韓国に住むようになった当初は友人にたくさん助けられた。ビザや出入国に関する問題は常に不安だったが、韓国語は話せたので、生活をする上でそれほど不便は感じなかった。しかしロンドンでの生活とはかなり違っていたので、最初は家族や友人に会いたくてホームシックにもなった。韓国生活の魅力は、バスなどの公共交通機関が非常に便利で、タクシー代も非常に安いという点や注文さえすればすぐに配達してくれる宅配システム、すべてがスピーディーにおこなわれるという点だ。いつの間にかこうした生活にも慣れてしまった。

- 山登りが好きだと聞いたが、よく行く山は。どういうところが気に入っているのか。
チリサン(智異山)にはこれまで8〜10回ほど行った。頂上まで行くときもあれば、途中まで行って下山することもあるし、チョンジュ(清州)やナムウォン(南原)から登るときもある。プッカンサン(北漢山)は家から近いこともあって一番よく行くが、やはり智異山が一番好きだ。ノゴダン(老姑壇)は登りやすく、1時間くらいあれば頂上にたどり着ける。山が高いので景色も抜群だ。

- 韓国での生活と、文学作品を通じて受けた韓国人と韓国社会の印象は。
人によって違うので一概には言えないが、都市での生活は思いやりの心を忘れさせてしまうのかもしれない。ソウル以外の場所で出会う人々はとても親切で、たとえ相手が他人であっても、思いやる心を惜しまない。食べ物を一緒に分けて食べる共有の文化も、都市よりもどちらかというと郊外でよく見かける。

- 韓国文学をここまで愛してくれていることに感謝する。あなたの国でもあるイギリスの文学作品は韓国文学に少なからず影響を与えた。韓国人に勧めたい小説や詩があればぜひ紹介してほしい。
現代作家はよく知らないが、詩は好きだ。シェイマス・ヒーニー(Seamus Heany)、フィリップ・ラーキン(Philip Larkin)などをオススメしたい。シェイマス・ヒーニーはノーベル文学賞を受賞しており、フィリップ・ラーキンも有名な英国の詩人だ。小説はSFが好きで、一番好きなのは「天の川を旅するヒッチハイカー(The Hitchhiker's Guide to the Galaxy)」。SF小説ではとても有名な本だ。すでに韓国語に翻訳・出版されているが、機会があれば自分で翻訳してみたい。

- 韓国文学と関連して、今後やりたいことは。
今年3月からイファ(梨花)女子大学国文学科の修士課程に入り、2年間韓国文学の勉強をする予定だ。目標は、できるだけ多くの文学作品を韓国語で読み、韓国語で文章を書くこと。韓国語への理解をさらに深め翻訳スキルを向上させるために、専攻は現代韓国文学批評を選択した。なによりも韓国書籍の読書量を増やすのが目標だ。

記事:コリアネット ユン・ソジョン記者
写真:コリアネット チョン・ハン記者
arete@korea.kr

韓国文学と翻訳についての専門的な知識を得たい方は、韓国文学翻訳院のホームページ(http://www.klti.or.kr)をご参照ください。