診察室で処置方法を説明するミン・ボッキ院長
[大邱=和田崇(日本)]
旅先で観光を楽しみながら、最先端治療も受けられる「メディカル・ツーリズム(医療観光)」が人気を博しています。外国人誘致にも効果的とあってアジア各国で広く受け入れられていますが、とりわけ人気が高いのがソウル、釜山(プサン)に続く韓国第3の都市・大邱(テグ)。今年の夏、知人の紹介で初めて大邱を訪れ、医療観光の現場に触れてきました。
大阪は関西国際空港から約1時間15分。飛行機から真夏の大邱に降り立つと、都市の雰囲気を肌で実感します。とにかく「暑い」街なのです。内陸の盆地に位置する大邱は毎年韓国内の最高気温を記録する程とあって、「大邱(テグ)」と「アフリカ」を足して「テプリカ」と呼ばれるほど。とはいえ「暑い」だけでなく、「熱い」街でもあるのです。
空港から案内してくれた通訳の金ウナさんによると、1658年に王命により大邱に薬令市が開設されて以来、360年以上の韓方医療の歴史を持つ大邱は、韓国内で唯一「メディ・シティー」のブランドを持った医療都市としても有名だといいます。市内には6カ所の医療教育機関、3000を超える医療機関があり、2007年には医師や薬剤師、漢方医師など五つの医療団体と五つの大型総合病院が集まり、「メディ・シティー」プロジェクトが立ち上がりました。医療観光を受けに大邱を訪れる外国人は2009年は2000人余りでしたが、2016年には2万人を超えるなど10倍以上に急増しています。
先進的医療でも世界有数の大邱ですが、日本を始めとするアジア各国の外国人に最も人気があるのは美容分野だといいます。今回、私が受けた治療もレーザーを使った顔のシミ取りという最新の美容技術。日焼けやシミが目立つ年齢になり、男性とはいえ身だしなみをおろそかにはできません。知人の勧めで大邱でも有数の皮膚科を紹介してもらったという訳です。
外国で医療行為を受ける際に、最も心配されるのが言葉の壁でしょう。そんな不安も、空港まで迎えに来てくれた金さんとの会話で一掃しました。金さんは大邱医療観光振興院の「医療観光通訳士」の資格を持つ現地コーディネーター。流ちょうな日本語で「何でも聞いて下さいね」と全面的サポートを約束してくれます。聞けば、診療の手配から送迎、現場での通訳を無料で提供する「ワンストップサービス」が大邱の医療観光の最大の売りといい、治療後には最大3時間まで観光にも付き合ってくれるとのこと。大邱の見どころからグルメといったマル秘情報を教えてくれるのも大きな魅力です。
今回訪れたのは市内中心部に位置するある皮膚科。軒先に「JCI」の看板が大きく掲げられていますが、このJCI認証こそ一流医療機関の証。医療機関の国際的評価機関であるJCIの認定は1200項目にも及ぶ世界で最も厳しい認定基準を満たさなければならず、同クリニックは皮膚科ではアジアで最初にJCI認証を取得するなど信頼性の高さがうかがえます。
色素疾患の処置に最適という最新のピコレーザー
クリニックのミン・ボッキ院長は、毛髪移植や傷跡治療、アンチエイジング分野で優れた研究業績を持ち、世界皮膚科学術大会で座長も務めるなど皮膚科分野で世界的権威。どこか日本の有名美容医師にも似た風貌ですが、実際に問診を受けてみると優しい物腰に加え、診断が実に論理的でわかり易い。日本には導入されていない最新レーザー機器の説明から、どうして色素疾患(シミ)が改善されるのかまで細かく説明してくれるので安心しました。
診断の結果、いずれも副作用が少なく外科的作業を必要としないレーザー手術を受けることに。色素除去に有効で、皮膚の組織損傷を最小限に抑える多波長レーザーによる治療を体験しました。規制が厳しい日本では行えない治療ですが、費用は他国の3分の1程度といいます。ホテルのロビーを思わせる待合室には中国やインドネシアから治療に訪れた患者が待機しており、使用済みの薬瓶を使ったアート作品にはミン院長のこだわりが感じられます。ミン院長は「皮膚科の手術は日帰りでできるものがほとんどで、短期間でできることがメリット。規制緩和で韓国のレーザー技術は世界で最先端を走っており、費用も本場・米国の数分の1とリーズナブル。米国から直接来られる患者さんもいるんですよ」と話していました。
約600㍍ほどの通りに韓方薬局や韓医院が並ぶ大邱薬令市場
治療後は、金さんの案内で韓国三大薬令市場の一つである大邱薬令市場を見学。約600メートルほどの通りに韓方薬局や韓医院が続き、名物の薬膳足湯につかって疲れも癒してきました。大邱の医療観光を巡っては、6月から医療目的の外国人観光客に「大邱医療観光割引カード」を発給し、再訪問の際にはカード提示で医療機関や宿泊施設、観光地などで割引サービスを受けられるようになりました。
今回私が受けた皮膚美容だけでなく、人間ドッグなどの総合検診や眼科(レーシック手術)、歯科(矯正、インプラント)、伝統の韓方(鍼灸)といったさまざまな医療分野に渡るのも大邱の特徴です。日韓関係の悪化がさけばれていますが、今年7月の訪韓日本人は27万4830人で前年同月と比べて約2割増と、年間を通じても最も多かった2012年(352万人)を上回る勢いといいます(韓国観光公社調べ)。こんな時だからこそ、新たな韓国の魅力に触れる旅に挑戦してみるのも悪くありません。
*この記事は、日本のコリアネット名誉記者団が書きました。彼らは、韓国に対して愛情を持って世界の人々に韓国の情報を発信しています。 km137426@korea.kr