「李滄東:アイロニーの芸術」のワンシーン=全州国際映画祭
[チョン・ジュリ]
[写真=アラン・マザール]
韓国映画界の巨匠として知られる李滄東(イ・チャンドン)監督。フランス出身のアラン・マザール監督は李氏の作品に魅了され、李氏の世界観に注目したドキュメンタリー映画「李滄東:アイロニーの芸術」(2022年)を制作した。第23回全州国際映画祭(4月28日~5月7日)で初公開され、好評を得た。
マザール氏は1955年パリ生まれ。1979年から中短編・ドキュメンタリー映画の製作に取り組んでいる。映画監督、ダグラス・サーク氏やジャック・ターナー氏、アトム・エゴヤン氏にスポットを当てるドキュメンタリー映画を製作したことで知られている。
李氏は1954年大邱生まれ。教師として勤務する傍ら小説家として活動し、1997年に「グリーンフィッシュ」で映画監督としてデビューした。同作品で第16回バンクーバー国際映画祭で龍虎賞(新人監督賞)を受賞。
代表作のうち、「オアシス」(2002年)は第59回ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、銀獅子賞 (監督賞)を受賞した。「シークレット・サンシャイン」(2007年)と「ポエトリー アグネスの詩」(2010年)、そして「バーニング」(2018年)はカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。「ポエトリー アグネスの詩」で第63回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞するなど、数々の受賞歴を誇る。
芸術作品をドキュメンタリー映画で記録するというマザール氏。彼はコリアネットとの書面インタビューで「李滄東:アイロニーの芸術」について語った。
フランス出身の映画監督、アラン・マザール氏=本人提供
――李氏の代表作について。同映画を製作したきっかけは。
李氏の作品のうち、初めて見たのが「ペパーミント・キャンディー」(2000年)だった。李氏は同作品で第53回カンヌ国際映画祭で「15人の監督」に選ばれた。時間をさかのぼるという設定が印象深かった。
「オアシス」は、テーマやシナリオ、視覚的要素(ミザンセーヌ)、演技、すべてが完璧な名作。「グリーンフィッシュ」では、個人的なエピソードを語る技量が優れている。「シークレット・サンシャイン」、「ポエトリー アグネスの詩」、「バーニング」を見終わった後、李氏のドキュメンタリー映画を製作すると決めた。
――製作過程について。
フランス映画雑誌「ポジティフ」の所属批評家、ヤン・トビン氏と李氏のインタビュー記事からインスピレーションを受け、シナリオ執筆に取り掛かった。李氏に出演の許可を取り、韓国の映画製作会社と連携し、プロデューサーのジーン・ファブライス・バーンオルト氏とチームを組んだ。
「李滄東:アイロニーの芸術」のワンシーン。「ペパーミント・キャンディー」の撮影地=全州国際映画祭
――同作品で李氏の映画撮影地を紹介している。製作段階で新型コロナの影響は?
「バーニング」(ソウル市龍山区、京畿道坡州市)と「グリーンフィッシュ」(京畿道高陽市、ソウル市永登浦区)の撮影地が紹介されている。コロナ禍の影響で韓国に行くことができなかった。李氏と直接会って仕事をしたかったが、それができなくなってとても残念に思う。
結局、オンライン会議システム「ZOOM」でやり取りするしかなかった。撮影期間は2021年9月から10月までの16日間。上質な撮影・録音機材が用意されている環境で、翻訳家のチョ・ギョンヒ氏が通訳・翻訳してくれて順調に行われた。
――時間を逆の順序で紹介しているが。
最新作「心臓の音」(2022年)からデビュー作、李氏の子供時代までを逆の順序で回想していく撮影方法をとった。作品では、李氏が代表作の撮影地を訪問し、自身の人生を振り返る。最終的には、芸術的なインスピレーションを受けた子供時代まで回想する。
俳優ムン・ソングン氏と会話する李氏(左)=全州国際映画祭
「李滄東:アイロニーの芸術」のワンシーン=全州国際映画祭