ひと

2023.09.12

キム・ボトン作家が自身の軍での経験をもとに描いたウェブトゥーン「D.P .犬の日」(2015)のワンシーン。キム・ボトン作家はコリアネットとの書面インタビューで「軍隊の中で起きた決して笑えない過酷な出来事に関するストーリーである分、暗い雰囲気の硬直した絵柄にした」と話した=キム・ボトン作家の公式インスタグラム

キム・ボトン作家が自身の軍での経験をもとに描いたウェブトゥーン「D.P .犬の日」(2015)のワンシーン。キム・ボトン作家はコリアネットとの書面インタビューで「軍隊の中で起きた決して笑えない過酷な出来事に関するストーリーである分、暗い雰囲気の硬直した絵柄にした」と話した=キム・ボトン作家の公式インスタグラム


[ユン・スンジン]

「『今までの経験すべてが自分の財産』だと思う。その過程で、問題だと感じたことや、さまざまな感情を基にストーリーを描くとき、より生き生きとした作品になる。だからこそ、さらに多くの経験をしたいと思っている」

韓国の男性であれば、誰であれ必ず行かなければならない軍隊。在りし日の思い出でもあるが、誰かにとっては思い出したくもない悪夢である軍隊。そんな軍隊でのストーリー、「 D.P .犬の日」(2015)で人気作家となったキム·ボトン作家が「経験」に対する姿勢だ。

数年間、ガンと闘った父親との経験を描いたウェブトゥーン「アマンジャ」(2013)でデビューしたキム・ボトン作家は、2作目の「 D.P .犬の日」で注目を集めた。2017年に出版されたエッセイ「まだ不幸ではありません」では、大企業を退社した後、ロースクールを準備していたが、ウェブトゥーン作家になった自分のストーリーを紹介した。彼はもはや「 D.P .犬の日」を原作としたネットフリックス・オリジナルシリーズ「D.P .」シーズン1と2の脚本を書き、昨年12月にはワッチャ・オリジナルシリーズ「砂漠の王」で演出に挑戦するなどウェブトゥーンだけでなく、多方面で活躍している。

キム・ボトン作家が代表を務めるコンテンツ製作会社「スタジオタイガー」のシンボルである白虎(ベクホ)の仮面をかぶってポーズを取っている=キム·ボトン作家の公式インスタグラム

キム・ボトン作家が代表を務めるコンテンツ製作会社「スタジオタイガー」のシンボルである白虎(ベクホ)の仮面をかぶってポーズを取っている=キム·ボトン作家の公式インスタグラム


- 普通の会社員からウェブトゥーン作家の道を歩むようになったきっかけは。

会社での生活にうまく適応できず、何の計画もなしに退社した。どうやって生きていこうか悩んだ末に「ロースクール進学」という道を選んだが、受験に落ちてしまった。その後、漫画を描いてみてはどうかとすすめられて、作家生活を始めることになった。結局「偶然」作家になったわけだ。そうやって始まった作家生活が、10年も続いている理由は、何かを「作りだす」という作家の姿勢より、「納品」しなければならないという会社員のマインドで漫画を描いてきたからだ。

- 代表作「 D.P .犬の日」は、特にアジアの視聴者から大きな反響があったが、これについてどう思うか。

やはり、徴兵制あるいは似たような兵役の義務を負っている社会や、個人の自由より組織でのハイアラーキーを重視する硬直した社会的雰囲気のためではないかと思う。軍の中における過酷行為のような悪習が存在する文化圏では共感できる部分があったのではと思う。

7月28日にグローバル・ストリーミング・サービスのネットフリックスで公開されたドラマ「D.P.」シーズン2のワンシーン。「D.P.」シーズン2は、公開3日でネットフリックス・グローバル・TOP10・TV非英語部門で5位に上がった=ネットフリックス公式フェイスブック

7月28日にグローバル・ストリーミング・サービスのネットフリックスで公開されたドラマ「D.P.」シーズン2のワンシーン。「D.P.」シーズン2は、公開3日でネットフリックス・グローバル・TOP10・TV非英語部門で5位に上がった=ネットフリックス公式フェイスブック


- 「韓国の軍隊についてよく知らない外国人読者のために、軍務離脱逮捕専担組(D.P.)がどういったものなのか説明してほしい。

韓国は徴兵制度の国家であるため、20代のほぼすべての男性が決められた期間、国防の義務を遂行しなければならない。 どの社会、どの組織でもそうであるように韓国の軍隊でも、様々な問題が起きている。その一つが「脱走」だ。韓国は休戦中の国家であるため、脱走は重大な違法行為に当たる。この時、脱走兵を逮捕するために出動する特殊兵力が 「D.P .」である。映画「ブレード・ランナー」(1982)でレプリカントを追う特殊警察官「ブレード・ランナー」と似ている。

- 7月28日「D.P.」シーズン2が公開された。ウェブトゥーンの原作者として、ドラマを見てどう思ったか?

製作チームの苦労が目に浮かび、深い罪悪感を抱いた。作家という職業は、本来、机に座って己の妄想を文章にするのが仕事である。「妄想を実際に具現化する時、どれほど多くの人に苦労をかけるか」については、鈍感な面がある。だからといって、撮影しやすいように書くこともできない。結局のところ、罪悪感を持ったまま文章を書くしかないのだ。昨年、「砂漠の王」を直接、演出してみて、その大変さがわかり、深く反省している。

キム・ボトン作家の初ウェブトゥーン「アマンジャ」(2013)は、父親のガン闘病の経験を基に作られたという背景と対照的に、童話のようなタッチの絵が目を引く=キム·ボトン作家の公式インスタグラム


- 「アマンジャ」と「 D.P .犬の日」は、いずれも個人的な経験から始まった。「経験」の持つ意味は何か。

『今までの経験すべてが自分の財産』だと思う。その過程で、問題だと感じたことや、さまざまな感情を基にストーリーを描くとき、より生き生きとした作品になる。だからこそ、さらに多くの経験をしたいと思っている。 最近は仕事が忙しすぎて、何かを経験できる時間がなく、残念だ。作家を目指す人なら、できるだけいろいろな経験をしてみることをおすすめする。

- 今年、アメリカの大手エージェンシーであるクリエイティブ・アーティスト・エージェンシー(CAA)と契約を結んだ。グローバル市場では、どのような点に重きを置いて作品を制作する予定か。


「D.P.」がそうだったように、私たちの社会が持っている特殊な問題を素材にしても、多様な文化圏で共感してもらえるため、特に素材を変えようとは思わない。これからも、社会に潜む問題について話していきたいと思う。それにより、多くの視聴者が私たちの社会を省みることのできるきっかけを作りたい。今、海外の製作会社と話が進んでいる件も、このような観点で議論している。

- 次のウェブトゥーン作品では、どんな経験や話を見せてくれるのか。コリアネットの読者に教えてほしい。

生老病死と喜怒哀楽について伝えたいと以前から話しいた。「アマンジャ」では、「病」と「愛」について、「 D.P . 犬の日」では、「生」と「老」について伝えた。今後は、「老」と「死」、そして「喜」と「楽」について話したいと思う。特に、誰もが普通に経験する過程を通じて語ろうと思う。学校や会社のような、ありふれた場所で、誰もが経験する出来事にまつわる興味深い話を準備している。

scf2979@korea.kr