今夏の韓国映画界は毎年恒例のホラー一色から脱却し、いつにも増して多様なジャンルで観客の選択の幅を広げてくれた。そしてそれが大ヒットにつながっている。
この夏、真っ先に公開されたのは今年初めて観客1千万人を超えた『釜山行き』。韓国ではまだ馴染みのない「ゾンビ」をテーマにした『釜山行き』は、世間の懸念とは裏腹に公開初日から観客が押し寄せた。映画の内容はハリウッドやアメリカのドラマに登場するゾンビ物とあまり違わない。正体不明のウィルスが韓国全土に拡散して緊急災害警報が発令されたなか、感染されずに残ったたった1つの安全都市釜山(プサン)を目指して列車に乗り込んだ人々が経験する苦難とそれを克服するストーリーである。
『釜山行き』は、ゾンビというややありきたりなテーマが韓国の社会像と生き延びるための人間の本能を見事に描き上げたことで「観客動員1千万」を越えることができたと評価されている。同作は5月に「第69回カンヌ映画祭」のミッドナイト・スクリーニング部門に招待され観客から好評を得ただけでなく、ティエリー・フレモーカンヌ映画祭のディレクターから「史上最高のミッドナイト・スクリーニング」と激賞された。
『仁川上陸作戦』でダグラス・マッカーサー元帥役を務めた俳優のリーアム・ニーソンは本人そっくりの熱演を披露した。彼は実在の人物を演じることにプレッシャーを感じ、マッカーサー元帥に関する書籍やドキュメンタリーなどを綿密にチェックし、彼のイントネーションまで練習したという
『釜山行き』より公開が1週間遅れた『仁川(インチョン)上陸作戦』も576万人の観客を動員した。イギリスを代表する俳優の1人であるリーアム・ニーソンがダグラス・マッカーサー元帥役を務めたことで公開前から話題となった『仁川上陸作戦』は、韓国戦争(=朝鮮戦争)の流れを大きく変えた仁川上陸作戦を成功させた人々の裏話を描いている。
ニーソンは映画について「非常に感動的で悲しい物語だ。戦争を勝利へと導くために身を投げた数千人に上る韓国の勇敢な青年たちを巧みに表現した作品」と説明した。彼は一番記憶に残るシーンとして「マッカーサー元帥が司令官たちに話を聞かせるシーンで、実際にあったエピソードだそうだ。マッカーサー元帥が皆退却してしまった戦場に1人残った15~16歳の少年兵に会う。その青年に自分が何でもしてあげられるとしたら何が欲しいかと聞いたところ、彼は家に帰りたいと言うどころか弾が欲しいと答え、元帥がこれこそ本物の軍人だと考えるシーンだ。少年兵を演じた俳優の演技が非常に感動的だったので個人的には一番気に入っている」と述べた。
悲劇の時代を生きた朝鮮の最後の皇女「徳恵翁主」を演じたソン・イェジンは、観客が彼女の悲しい人生を胸に刻んでほしいと話した
『仁川上陸作戦』のように韓国の歴史にフォーカスを当てた作品が8月3日に公開された。『徳恵翁主(トッケオンジュ)』がそれだ。高宗(コジョン)皇帝が還暦を迎えた1912年に生まれた大韓帝国最後の皇女の物語だ。遅くに出来た娘で皇帝の愛情を一身に受けて育った彼女は、日本による植民統治で過酷な人生を生きた。高宗皇帝が崩御すると彼女の人生はがらっと変わり、14歳だった1925年に日本留学を強制された。韓国への帰還を切に望んでいた彼女は精神疾患を患い、母国を離れて37年ぶりの1962年1月26日にようやく帰国することができた。彼女は1967年から昌徳宮(チャンドックン)の楽善斎(ナクソンジェ)で静かに暮らし、1989年に息を引き取った。
その人生を描いたのが映画『徳恵翁主』。徳恵翁主役を務めた女優のソン・イェジンは「私が出演した映画を見て一度も泣いたことがなかったが、(徳恵翁主を見ては)泣いた。国を奪われた悲劇の時代に、徳恵翁主という女性が国の運命のように悲しい人生を生きたことを一度は考えて、一緒に悲しんでほしい」と話した。ソン・イェジンは映画の完成度を高めるために自ら10億ウォンを投資したという。
狭い空間での生存を演じたハ・ジョンウは与えられた環境に慣れていく自分に驚きを感じたという
10日は全くジャンルの異なる2作の韓国映画が同時に公開された。
災害映画の『トンネル』とスポーツ映画の『国家代表2』がそれだ。
『トンネル』は、韓国映画の『海雲台』やハリウッド映画の『デイ・アフター・トゥモロー』『カリフォルニア・タウン』『ディープ・イインパクト』『ボルケーノ』のように自然災害をテーマにした従来の災害映画とはっきり区別される。
『トンネル』は世界のどの国家でも見かけられるトンネル、その狭い空間に閉じ込められた人が生き残るための戦いを描いた作品。メガホンを取ったキム・ソンフン監督は「いかにも単純なストーリーだが、命についての、命の大切さについて語る映画だ。地球の60億以上の命、その一つ一つが宇宙でありすべてである命の重要性を感じさせたかった」と映画制作の理由を説明した。命の大切さに共感したのか、『トンネル』は公開翌日の11日まで75万人の観客を動員した。
主演を務めたハ・ジョンウは「私が車の中に閉じ込められた状態でセット撮影をしたのが2カ月ほどだったが、車の中があまりにも狭く、その中にカメラやライトなどがみっしりセットされていたのでどうやって演技をして表現していけばいいのか最初は非常に心配していた。そこに段々慣れていく自分が不思議に思えた」と、限られた空間で撮影する大変さを語った。
韓国唯一の女子アイスホッケーチーム。「韓国女子アイスホッケー代表チーム」のストーリーを描いた『国家代表2』に出演した女優たちは、演技のため毎日のように厳しいスケートトレーニングを受けた
韓国スキージャンプ代表チームの物語で大ヒットを記録した映画『国家代表』の続編として韓国女子アイスホッケー代表チームの物語を描いた『国家代表2』も公開された。
なに1つまともなものがない劣悪な環境を克服して国家代表になるというあらずしは『国家代表』と似ていて、やはり実話を基にしている。
主演を務めた女優のスエは、出演した女優は皆怪我を負いながらも撮影をしたと述べ「寒さと体力、精神力との戦いだった」と、以前のどの映画より大変な状況を克服した作品であると話した。『国家代表2』は公開から2日間14万人以上が観覧した。
コリアネット チョン・ハン記者
写真:映画振興委員会
翻訳:イム・ユジン
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