慰安婦被害者が日本を相手取って起こした損害賠償請求素養訴訟の判決後、報道陣の質問に答える原告側の弁護士=8日、ソウル、聨合ニュース
保坂祐二
世宗大学教授(政治学専攻)
1月8日、韓国のソウル中央地方裁判所は、元慰安婦であった故ペ・チュンヒさんら12人が日本を相手取って起こした損害賠償請求訴訟で、原告の勝訴という歴史的な判決を下した。
振り返れば、慰安婦被害者12人は、2013年8月に日本政府を相手取って原告1人当りそれぞれ1億ウォン(約950万円)の慰謝料を請求する調停申し立てをソウル中央地裁に提出した。
そのきっかけは、2011年8月の憲法裁判所の判決だった。憲法裁判所は、慰安婦問題に関して韓国政府が問題解決のための具体的な努力をしてこなかったとし、それは被害者の基本権を侵害するもので違憲であるという判決を下したのであった。その後、当時の李明博政権は積極的に日本政府に対して、慰安婦問題の解決を提案し始めた。
またこれをきっかけに、被害者たちは当事者同士の交渉によって問題を解決する調停を申し立てたのだが、日本政府は「主権免除」を盾に、被害者たちの調停申し立てにいっさい応じなかった。
その後、2015年12月、韓国と日本はいわゆる「日韓慰安婦合意」を結んだ。しかし、慰安婦被害者たちの一部はこの合意に不満だった。なぜなら、この合意でも日本政府は最後まで慰安婦問題を犯罪と認めなかったからである。合意の中で日本は「責任を痛感」すると表明した。しかし、その「責任」とは「法的責任」ではなく「人道的責任」であった。
「法的責任」を認めるならば、自らの犯罪行為を認めることになる。しかし「人道的責任」だけを認めるならば、結局自らの行為が法的には問題がなかったと主張するのと同じである。このような合意では、日本側が謝罪したとしても、それは法的責任を認めた心のこもった謝罪ではなく、不本意ながら損害が生じたことに対するお詫びにすぎない。日韓慰安婦合意で、日本が韓国に支払った10億円は、戦争犯罪を認めた賠償金ではなく、あくまで合法的な過程で生じた損害に対する慰労金であった。
そしてこの合意の後も、日本政府は合意の精神に違反し続けた。合意から3週間後の2016年1月18日、安倍首相(当時)は国会参議院予算委員会で野党議員の質問に答え、「現在まで政府が発見した資料の中には軍や官憲による所謂慰安婦強制連行を直接示した文献は発見されていない」、「今回の合意により戦争犯罪と同様の内容を認めたわけではない」などと答えた。
この答弁は、慰安婦問題に対する日本政府や軍の犯罪性を否定した内容だった。その後も、日本の責任ある官僚たちが安倍首相と同じ言葉を国の内外で繰り返した。慰安婦合意には、「被害者の名誉と尊厳を回復する」という内容があるが、「慰安婦」が合法的な売春婦だったということと何ら変らない言葉を繰り返す日本政府は、初めから合意の精神に違反していたと言わざるを得ない。慰安婦合意では「合意内容を守る時だけこの合意は最終的かつ不可逆的」となっているのだから、日本側が根本的な部分を守らないこの合意はすでに最終的でも不可逆的でもない。
このような背景で、被害者の要請により事件は2016年1月、正式裁判に付された。その結果、ソウル中央地裁は憲法を根拠に、まず被害者の「裁判を受ける権利」を認めた。また裁判所は、被害者たちに対して行われた日本側の性的搾取や暴力などは、国際法上の絶対規範に違反した犯罪行為であるため、このような犯罪行為まで主権免除を理由にその責任を免ずることはできないと判決した。本来、主権免除の原則は、強国の弱小国に対する法的横暴を押さえるための慣習的な国際法である。
それに今回は、慰安婦被害者という個人が日本という国家を相手に起こした裁判であり、国家が国家を相手にした裁判ではないために、主権免除の原則が当てはまるとは言えない。
日本では、この判決を国際司法裁判所に提訴して解決しようという動きがある。しかし、慎重論も根強い。日本が今回の慰安婦裁判の結果に対して、対話ではなく強硬姿勢を貫くならば、最終的には日本に不利になるという見方も以外に広がっている。なぜなら、日本軍「慰安婦」問題は、韓国だけの問題ではなくアジア全体の問題であり、オランダなどヨーロッパの問題でもあるからである。日本が下手に強硬一辺倒の姿勢を貫けば、女性に対する旧日本軍の反人道的行為がさらに世界的に糾弾されるきっかけを作ってしまい、少女像が世界各地に作られていく悪循環をもたらす。
ドイツ・ベルリンのミッテ区議会が少女像の永久設置決議を採択したのは記憶に新しい。日本政府と右翼団体、その他の激しい妨害があったにもかかわらず、ドイツの良識が少女像に永久設置を導き出したのである。先進国の多くの知識人たちは、日本の右派の歴史修正主義に反対する姿勢を貫き始めている。日本が自国の侵略の歴史を隠蔽し歪曲するために行うロビー活動も、それほど大きな効果を上げることができない状況が世界的に形成されつつある。
日本政府が正しい判断力を持っているならば、自国にとって結局不利となる方向を選択するのではなく、ドイツがまず手本を見せたように、日本自らが過去の侵略の歴史を隠蔽・歪曲せずに直視し、根本的な反省と自浄努力を今からでも徹底して始めなければならないだろう。世界は国家主権以上に人権を重視する方向に動いている。この動きに逆らうならば、日本にとって決して明るいとは言えない未来が待ち受けていることを日本の指導者たちは悟らなければならないだろう。