歴史文献で韓国の5大名酒と挙げられた「梨薑酒」
[全州=ミン・イェジ]
[写真=キム・シュンジュ]
[映像=イ・ジュンヨン]
全羅北道(チョルラブクト)の全州(チョンジュ)市は、昔からソンビの故郷、食の都として知られる。
後百済の首都であり、朝鮮王朝の発祥の地である全州。韓国で初めて「ユネスコ食文化創造都市」の認定を受けるほど、韓国料理の文化が発達している。最近は、ご当地グルメのために訪れる人々でにぎわっている。
食文化の発達に欠かせないのがお酒。家で酒を造る風習がある韓国、その中でも全州は家醸酒(家で造る酒)の発達に適した様々な条件を満たしていた。朝鮮時代、漢陽(ハニャン、今のソウル)と平壌(ピョンヤン)に続いて3大都市(住宅数基準)であった全州は、湖南(ホナム)地方(全羅南道・全羅北道)一の穀倉地帯があり、身分の高い人や富裕層の人が多く住んでいた。このように、名のある家の場合、訪問客が多い上に、祭祀などもよく行われるため、家でお酒を造る頻度が高かった。こういった酒が銘酒として認められ、「名家銘酒(名のある家に美味しい酒がある)」という言葉がきた。
全州の家醸酒を代表するのが「梨薑酒(イガンジュ)」だ。全州の梨や完州のショウガが入ってることから名付けられた。梨薑酒の「薑(はじかみ)」は、ショウガの別名。ウコンやシナモン、蜂蜜も入る。ウコンは、全州で栽培され、王様に捧げられていた貴重な食材だ。梨とショウガも王様に献上品として捧げられた。詩人であり歴史家の崔南善(チェ・ナムソン)は自身の著書「朝鮮常識門答」で「竹瀝膏」「甘紅露」と共に朝鮮時代三大名酒として「梨薑酒」を挙げた。この酒を味わった人は「仙人にふさわしい酒」と称えたという。
梨薑酒の主な材料は梨、ショウガ、ウコン、シナモン
韓国政府は1988年、ソウル夏季オリンピックの開催を控え、韓国を代表する酒造りの名人を探しだした。その結果、「梨薑酒」「ムンベ酒」「安東焼酎」を造る3人が「郷土無形文化財」に指定された。その3人のうち、今も生きている唯一の人が趙鼎衡(チョ・ジョンヒョン)名人だ。
梨薑酒は、チョ家の家醸酒だった。チョ氏の祖先は朝鮮時代に高い官職に就いており、全州で郡知事を務めた。大勢の客をもてなすために様々な酒を造り、その中で最も人気のある酒が梨薑酒だったという。全州に集まって暮らしていたチョ家の嫁たちが造ってきた梨薑酒は、日本による植民地時代、自家醸造を禁じる当時の酒税法や、独立後に米で酒を造ることを禁止した糧穀管理法の影響により、家の大小事がある時、密かに家でしか造らない密造酒になってしまった。その後、大学を卒業してから25年間、焼酎会社で働いていたチョ氏が、50歳になって梨薑酒の会社を創業し、消滅の危機にさらされていた梨薑酒を大衆化することに成功した。
韓国の伝統酒が密造酒扱いをされていた時、チョ氏は生活のために昼間には焼酎工場で働き、夜には研究室で梨薑酒を再現するための実験を繰り返した。その結果、今の梨薑酒を造ることに成功した。
梨薑酒は、アルコール度数35度に蒸留した焼酎に梨、ショウガ、ウコン、シナモンを別々に入れて、浸出と熟成の過程を経て作られる。その蒸留酒をブレンドした後、アルコール度数を合わせ、もう一度熟成させると完成。雑味がなく、調和した味わいが特徴。ピリッとした味が絶品だ。
チョ氏は「梨薑酒は配合率が少しでも合わないとショウガ酒、ウコン酒になりがちだ」とし、「材料がお互いを隠し合うのが重要」と話した。「ウコンから薬草の匂いがするため、ショウガのように強い匂いがする食材で覆う。互いに補い合う」とし、「最後にハチミツで覆うとコクが出る」語った。
梨薑酒に合う料理としては「ホンオ(ガンギエイ)刺身の和え物」をおすすめした。梨薑酒のピリッとした味と、ホンオの和え物の辛くて刺激的な味がとても合うという。気軽に楽しみたいならジャーキーがおすすめ。
梨薑酒を造る趙鼎衡名人
梨薑酒は今年6月、世界的な酒類品評会である「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ2022(International Spirit Challenge、ISC)」で金賞を獲得し、その優秀性を認められた。ISCは毎年、世界一の酒を選定して発表するもので、今年で27回目を迎えた。英国とオランダに直販所があり、韓流ブームの影響で最近は米国やカナダ、シンガポールからの注文も増えたという。
「韓国の文化は世界の人々から愛されている。韓国料理に対する関心も高まっている」とし、「特に酒文化は最高」というチョ氏。また、「昔の伝統酒は、設備が十分ではないため味が荒く、一定の品質を維持できないという問題があった」とし、「しかし今は、施設の改善により、味が格段に良くなった」と語った。
その上で、「韓国の伝統酒を求める外国人が増えているので、さらに頑張らなければならない。今後、韓国の伝統酒が世界的な名酒になることを期待する」と話した。
jesimin@korea.kr